大阪芸術大学大学院 学位(博士)論文 (平成22年度)

題目:現代における「キッチュ」の再評価 / Re-evaluation of KITSCH in Today's Society

作品テーマ:染織表現からみる「キッチュ」の同時代感覚性
論文題目:現代における「キッチュ」の再評価
主査:福本繁樹  副査:山縣熙 / 小野山和代


作品公開展示審査  大阪芸術大学展示ホール 2011年1月18日~21日

論文趣旨

 近代産業と情報化が進展する現代消費社会において、あたらしいメディアによって変容した「キッチュ」が展開し、人々は「キッチュ」から逃れがたく生活している。アニメやマンガ、特撮、ロックミュージックなどのサブカルチャーに没頭しながら生活してきた私にとって、「キッチュ」の影響は多大なものである。そうした「キッチュ」に着目し、「キッチュ」の意味や価値、また自作との関係や可能性を考察した。

 第1章では、「キッチュ」の一般的な考えや、先行研究をふまえ、「キッチュ」の意味や価値について次のように論述した。「キッチュ」とは、非現実的な願望へむかう「肥大化するイメージ」を表現したものといえる。人々の欲望が増大するとともに、この「肥大化するイメージ」へ向かうベクトルも強化され、それによって「キッチュ」が放つエネルギーも大きくなる。現代社会では、ポストモダン以降、「大きな物語」が機能しにくくなり、サブカルチャーに「キッチュ」が顕在化した。そうした「キッチュ」は、私たちにとって神のごとく機能している。

 第2章では、ネオテニーという社会現象をとりあげ、幼児性をともなった「キッチュ」が、オタク文化や少女文化などのサブカルチャーに展開したようすを分析した。「ヒーロー」と「KAWAII」をキーワードに、幼児性を保持する男の子的要素と女の子的要素をとりあげ、「キッチュ」の系譜を考察するなかで、ネオテニーの傾向について論述した。さらに、ネオテニーとジェンダーフリー思想の複雑な影響によって、幼児性を保持する男の子的要素と女の子的要素のハイブリッドとして出現した、「かわいいヒーロー」についても論述した。また、「キッチュ」がもつ呪術性のもと、私たちはヒーローを神の代替としてとらえ、サブカルチャーに神話をみているのではないかという解釈についても記した。

 第3章では、自作と「キッチュ」の関係と、それぞれの可能性について考察した。現実とヴァーチャルがあいまいとなったネオテニー世界の影響をうけながら、私は作品に手仕事とコンピュータワークを複合させている。合理的なデジタル計算によって成立するコンピュータのヴァーチャル世界には、神秘的な事象は起こり得ないと、一般に認識される。しかし私たちは、イメージをよりどころに、無限に膨張可能なヴァーチャル世界に神や神話をみている。このようなことをふまえて、私はヒーローを主要なモチーフとし、ヒーローを示すものとして作品に赤を多用する。その赤のシンボル性について考察するなど、自作独自の「キッチュ」の同時代感覚性についても言及した。

 以上のように本論文は、あらたな展開をみせる「キッチュ」の傾向と可能性や、その「キッチュ」が放つエネルギーを取り入れようとする自作の意義について、私自身の見解を明確にしようと試みるものである。


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